私の実家は田舎にある、どのくらい田舎なのかを簡単に説明するなら、電車は一時間に二本あればいい方である。
のどかな田園風景と言えば聞こえはいいかもしれないが、はっきり言って何もない。
本屋だって2週間遅れに入荷されるような本屋だ、生きているのは最寄りの学校と組んで教科書を独占販売しているからだろう。
そしてこういった田舎は、仕事関係を探すのも難しい。
実際私がネットで簡単にバイトを探したとき、残っていたのは基本コンビニバイトくらいのものであった。
ネットに情報が載らないのである。
ネットに聡くないご老人が多いので、もっぱら募集はチラシか店頭に紙を貼っているくらいのものしかない。
そして圧倒的に募集人数は少ないし、昔ながらの考えというか、差別に近い思想のようなものが見えることもある。
見つけたからと安心すれば『ごめんねえ、経験者しか募集してないんだ』と言われることもある。
ちなみにこの言葉の真意は、男はいらないという意味である。(だったらそう書いとけよ)
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バイトをしたことがない人は知らないかもしれない、アルバイトには決してやってはいけないバイトが3つあると言われている。
コンビニ、飲食、引っ越しである。
コンビニバイトか飲食系バイトしかないのを確認した私は、とりあえず最も近かったコンビニバイトを受けることにした。
やってはいけないバイト?
そもそもそんな選択肢がないのだ。
多少の恐怖を、大学に通えなくなるかもしれないというもっと大きな恐怖で抑え込み、私はコンビニに電話をいれた。
「はい、こちらK町K店、店長のYです」
電話口の男性はどうやら店長のようだった。
「あのすみません、バイトの募集を見て電話したのですが」
「わかりました、バイト希望ですね、面接はいつが良いでしょうか」
流れが恐ろしく速かったのを覚えている。
希望する時間帯のことも聞かず、とにかく店に引き込もうとしているのが今ならよくわかるが、当時はとにかく金が必要だと
ある意味金の亡者だったと言える。
今の私なら絶対にこんなところ行かないだろうと思っているが、金は命より重い、そんな考えが私を支配していた。
「明日の、15時などは大丈夫でしょうか」
そんなに早く募集しているなら、できる限り早く行ってやろう、そう思った。
それでも流石にこれは早すぎただろうか、そんな考えが頭をよぎる。
「はい、わかりました、それでは明日の15時ですね、お待ちしております」
まさかのオッケーが出たのである、これには当時の私も驚いた。
強烈に嫌な予感がした、だができる限りすぐに金が欲しいのだと思えば、この迅速な対応は素晴らしいじゃないかなんて思ってもいた。
そうして私のコンビニバイトは、面接の時点から暗雲立ち込めるものになっていたが。
当時の私はそれに気づくことさえ出来なかった。
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