コンビニバイト、二日目

B店というのは原付で30分近く走らせた場所にある、流石に遠すぎることや、原付だと時間がかかるという事もあって、B店に行くときは車に乗るように親からも言われた。

ほとんどペーパーだったので、車の運転に多少苦労しながら付いた先は、近くに住宅街や学校、更にはバイパスもあるコンビニB店。

そしてそこにTさんはいない、心の安寧を守っていたTさんはA店にしか行かないという話も聞いていた。強烈な不安が押し寄せてくる。

立地からみてどう見ても激戦区である。

心の中では、二日目にこんなやべー店入れられるの俺、そんなことを考えていたが当然拒否権はない。

小さい駐車場ながら割とぎっしり停まっている車、そして店の中はコンビニながら相当に混んでいる様子が見て取れた。

場所は田舎のはずである、近くの電車は通勤通学タイム以外1時間に一本の電車が走るくらいの田舎であるはずなのに、その店はどこから集まったのかと思うくらいに人で詰まっていた。

取りあえず前日、店長に言われた通り店の横に車を停めて中に入っていった。

人口密度が店の中だけ異常値になっているんだろうなと思わせられる、スーツ姿の人が多い印象だった。

そんな様子を横目にバックヤードに入る、人が一人歩ければ十分のといった感じのスペース、A店とは比べ物にならないほど混雑した部屋、いやもはや物置。

少し太っちょな人間では腹がつっかえて歩けなくなるんじゃないのってくらいには狭いそのバックヤードに、整理整頓といった概念は全く存在していなかった。

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店長から受けた説明された通りに出勤登録をした、これが出来てないと払われないとかなんとか。

労基普通に動くだろそれと思いながらも制服に袖を通す。

そして狭い通路の先からレジへと出ると、そこは地獄の様相を呈していた。

レジの前には常に5人は並んでいる、その列が二つあるのだ。

決して広いと言えない店内に、どこからこんなに人が集まったのだろうかというくらい人がいる。

前日のレジなどかわいいものだったのだ、おまけにこの様子では何かを教わりながらのんびりと研修を受けるような状況には見えない。

私は社会の厳しさを知った

『いやでも二日目でここはねえだろいくら何でも』

心の中で怨嗟の声が轟きあがる。

初めてみるほかのバイトに挨拶をする暇もなく、私はいきなり地獄の中に放り投げ入れられた。

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いやな予感は的中した、私が教わっていたのはレジ最低限の利用法、ただ買物に来た人を捌く術である。

チケットの手続きや収入代行など全く教わっていないのである。

人が多いという事は用途も多いという事で、当然のように私の教わっていないことが出てくる。

配達の受け付け方?店頭端末から出たレシート受領の仕方?

どうやら今の私ではこの店で役に立たないと分かると私はすぐにヘルプを出した。

すみません、これやってもらえませんか、自分教わってないんです

ほかのバイトに助けを求める私の声

レジもできないのにバイトに入ってんじゃねえ

その声に怒る客の声、私はごもっともと思いつつも、そもそも2日目なんだからこんな店に入れられるのがおかしい話なんだがなと府に落ちない。

わかった、じゃあ君はこのレジ変わってくれるかな

バイトは3人、一人は商品の品出しをしているようでこちらを全く手伝おうともしない、見た目には40代くらいだろうか、。

変わってくれたもう一人の男性は50代くらいの男性、痩せて、顔が少し赤く、そしてちょっと臭いがしてくる。

これは、酒か?

夕方から入るバイトだったが、バイトの一人はすでに酒が入っていて、更にもう一人はレジがどれだけ大変そうでも手伝おうとはしない。

これは、どういうことだろうか……

客に怒られたりしながらも、わからないことがあれば変わってもらって対処すると言ったことを繰り返し、私はその日を乗り切った。

と言っても怒る客の気持ちがわからないわけではない、その理由も理不尽な切れ方でもない、だから私の中では申し訳なさのほうが勝っていた。

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バイトの帰り際、車の中でいろいろなことが頭の中をめぐる。

私は今日、同じバイトにいろいろと教わりながら入るという話だったはずなのにそのバイト先にいる同僚に、いまだかつて遭遇したことのない世界を感じていた。

一人はどれだけ大変でも決して手伝おうとしない、自分の世界にでも入っていそうな40くらいの太ったおっさん。

一人はバイト前に酒をかっ食らって、赤ら顔で接客をしている50くらいのおっさん。

少なくとも私が20数年生きてきた中で、ここまで得体のしれない恐怖を感じる人間は、せいぜい物語の中にくらいしかいなかった。

そのレベルが既に二人現実で見つかっている、ひょっとしたらまだいるかもしれない

更に恐ろしいことが判明していた、私のシフトはB店で固定されていた

とどめだったのは、なんとこの二人しかその時間のシフトに入ってないというもはや死刑宣告に等しい情報がその日下った。

この状況で何かを教わることなんかできるとでも、店長は本気で思っているのだろうかと、私の中の店長株はもう下がり切らないところまで落ちていた。

だがこの環境で生きていかなければならない、首になれば大学へ通えなくなるという重い現実がある。

店長の株はもう落ちない、私の中では諦めと失望の感情と、こいつに合わせてもろくなことにならねえだろうから自分で何とかするかという考えが生まれていた。

皮肉にも、こんな環境に放り投げられたからでこそ、自分で何とかするしかねえなという機先を制するという考えを持つようになっていた。

これが社会の厳しさってやつなのか?

いや絶対違うだろ

危うく狂気に飲み込まれるかと思ったが、正気を失っていないことを確認した。

そんなこともあってから、次からのバイトに私は戦々恐々とするようになっていた。

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