コンビニバイト、相方①坂本

私のバイト時間は午後の4時から夜の8時までとなった。

何故この時間なのかと、時給割り増しが発生する前に区切ったというのが私の予想である。

自分はできる限り稼ぎたいのでたくさん入れてほしいとは言っていたが、これ以外の時間はまだ組まれていなかった。

他のバイトの兼ね合いを考えればそういうものなのかもなと思っていたが、だからと言ってB店にしかシフトが組まれていないのは悪意しか感じなかった。

働く時間帯のシフトを確認して店長に聞いたことがある、基本的に成人男性が二人、そして女子高生がたまに入るというシフトが組まれていると聞いた。

男性二人には覚えがある、初日に出会ったあの最悪な印象を持った二人だろうなと。

気が重くなったが、仕事とはそういうものなのかもしれないとあきらめて家を出た。

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B店で働いた初日に、レジでいろいろ教わっていた50代くらいの男性、仮名を坂本としておく。

「この時間帯は普通二人だよ、昨日は家風君が来るからってことで足立君が入ったらしいけどね」

という事を言っていた。どうりで坂本さん以外の従業員がいないわけだと店内を見渡していた。

客が少なくなった矢先に聞いてみた返答が、これである。

「またまた御冗談を」

嫌な汗が背中を流れた、常にレジに人が並ぶ店なのに、おそらくピークタイムであろう夕方に、どうして二人だけなんて言うバカげたシフトを組むということになるかよと。

「いや、本当の話なんだ」

坂本さんの顔はマジだった、その表情の前に私の軽口は叩き潰された。

ちなみにこのとき出てきた足立というのが、レジがどんなに忙しそうでも見て見ぬふりをしていた40に見える小太りのおっさんである。

この時間帯でこの二人がデフォ?

私はとんでもない失態をやらかしたのだと気づいた、できる限りやるという言葉を都合よくとらえられてしまったのだと、時すでに遅しという事にも。

悪意を持った人間に甘い言葉をつぶやけば、それは悪用される口実にしかならないのだと理解した。

そして店長に、取りあえず二度と安請け合いはしないと決めた。最悪の更にその先までを想定して動こうと考えるようになっていった。

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坂本さんは素性が不明の男性だった、50代の痩せた風貌、そしてコンビニバイト。

近くに立つと少し匂うかなとおもったが、加齢臭的な物だろうと私は気にしないことにした。

身長は172の私よりかなり大きかったので、おそらく180くらいはあったかもしれない。かなりの大男に最初は圧倒された。

坂本さんは仕事自体はそれなりに真面目にやっている人で、ごった返した店内で助けを呼んでも、たまに嫌そうな顔はしていたが、手伝ってくれていた。

この店で赤子も同然の私は、坂本さん、足立さん、そしていまだ出会っていない女子高生らしい関口さんと仲良くなることが生存するうえで必須の使命となっていた。

彼ら彼女らに嫌われるという事は=バイト環境での死を意味している。

でもまあ単純に人と話をするのが好きだというところもあった。

しかしここで大変な事に気づいた、50代男性40代男性20代男性、いったいどんな会話が成立するというのか。

女子高生はまだいい、多少年齢が離れてはいたが、それでも会話ができないほどではないだろうと。

二人のおじさんズに、いまだかつて経験したことのないジェネレーションギャップという壁がそそり立つ。

必死に頭をひねって出てきたのは、会話の基本は共通点からというものだった。

以前何かの本で読んだ、万能な会話の切り出し方として、それ以前に何をやっていたのかを聞くことを思い出し、想像してみた。

『ここに来る前お仕事は何をされていたんですか』

もちろんそんなこと聞けるわけがない。

50代でコンビニバイト、どこに地雷があるかわかったものではない。

その場でぶっ飛ばされてもおかしくないだろう。

選択しはないに等しかった、必然的に私は自分の事しか話をできなかった。

どうしてコンビニバイトで同じバイトの心境を慮らなければならないのだろうか、つくづく理不尽な気持ちだった。

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「いい天気ですよね」

「そうだね」

「こないだですね、大学で~」

話の振り方が極端で不細工だったのは、その身長と初対面に近しい人物との距離感を測りかねたのかもしれない。

ただ相手もそれは同じようなものらしく、自分より三回りも年齢がしたとなれば、どんな話題を振ればいいのかわからないのかもしれない。

もしくは単純に人と関わりたくない人なのかもしれないが。

だが一歩を踏み出してみると、なんだかんだと会話はできるようになっていった、私は何に怯えていたのか思い出そうとして、初日は酒を飲んでいたよなこのおっさんと思い出す。

その日は顔色も普通で酒は入っていない様子、だけど一度でもそういった場面を見れば、人の印象というのは簡単には覆らないのも事実。

結果私は『あれは何かの見間違いだったのだろう』と無理やり思うことにした。

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相変わらず私は仕事ができなかった。次から次へと知らない仕事を任せられるのだが、教わっていないのだからしょうがないと思う。

それでも何とか後ろから見て学んでいけば、徐々にわからないことは少なくなっていく実感はわいていた。

それでも罵声や怒声は浴びたくないものだと思っていた。

客はこちらの事情など知らないし、早く済むという理由でコンビニにきているのだと思えば、待たされて怒る客がいるのもおかしな話ではないよなとも思う。

客の気持ちもよくわかるからでこそ、私は本当にいたたまれない気持ちになった。

そのたびに坂本さんを読んでは対応を変わってもらう、一度客に

「レジ操作もできねえのにバイトに入ってんじゃねえ」

と言われたこともある

『はい、まさしくごもっともであります』

私は心の中でそう叫んでいた。この状況を赤裸々に語らせてもらえるならどれだけ楽になれるだろうか、そう何度も思ったものだった。

それでも時間というものは経つもの、まだであって初日、わからないことはたくさんあれど、それでも坂本さんは根本的に悪人だとかそういうわけではないのだなと分かった。

不安も精神の乱れも有り余るくらい募っていたが、それでも坂本さんだったらまだ何とかやれていけそうだなと思うと、少しだけ先行きが明るくなった、気がした

後日談

他の時間に入るバイトと、入れ替えのときにちょっとだけ話をすることがあった。

その子は姉妹でバイトに入っている女子高生だった。

「あの、家風さんは坂本さん大丈夫なんですか」

私は何を言われているのか本当によくわからなかった。

「大丈夫って何が」

「あたしたち本当は夜希望だったんですけど、坂本さんってその、変なにおいがするじゃないですか、あの狭いカウンターで坂本さんとあの距離っていうのがちょっと無理すぎて、それであたしたちは昼のシフトに入ってるんです」

衝撃の告白だった、恐らくこの臭いというのは加齢臭とか、酒の匂いとか、体臭とかまあいろんな要素が入り混じったものだったのだろう。

その女子高生は本当に、本当に嫌そうな顔をしていた。

「ああ、そうなんだ」

「そうなんだって、臭くないんですか」

「あれなんだけど、俺実は生まれつき鼻が良くないんだよ、まあちょっとなんか匂うかなと思ったけど」

そう、実は私は鼻が良くない。小学校の頃にガス漏れなどに気づけず、一度大事故を起こしかけたこともあったくらいだった。

そんな私が少し匂うというのなら、他の人には拷問のような悪臭なのだろう

「あー、だから大丈夫だったんですね、その、頑張ってくださいね」

なんだか可哀そうなものを見る目だったのを覚えている、生贄を憐れむ目とでもいうのか。

「まあ、頑張ってみるよ、ありがとう」

午後の4時から8時に私を含め4人しかバイトがいない理由、それは坂本さんの匂いがダメだという人が大半だという話だった。

つまりわたし限定で大丈夫な環境だったという事だったのである。

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