コンビニバイト、相方➂関口

男二人、先行きが不安になりそうな組み合わせを何度か交互に繰り返していくうち、精神は擦り切れそうになっていく。

助けを求めても誰も助けてはくれない、これは一種のハラスメントなのではないのかとか、そんなことも考えていた。

わからない仕事は客に嫌な目をされながら時間をかけて処理していく、そんな日が続くと流石にメンタルがやられそうな状態にもなる。

客が不機嫌そうになることに理不尽を感じたりはしない、いうなれば店側の落ち度なのだからその反応は当然だと思っている。

それでも嫌な顔をされるのは自分が精神的に来る。そこを割り切れる人には平気なのかもしれないが……

ここが嫌われ者の流刑地であると理解した私は、ひょっとすると関口という女子高生もなにかやべーやつなのではないのだろうかと危惧していた。

じゃらじゃらピアスを付けて、眼を飛ばしてくるような女性をイメージしたりしていた。

イメージが旧時代の女番長みたいなものだったが、まあこの店ならそんな奴がいてもおかしくはねえのかもなと。

この時だいぶ自分は壊れていたのかもしれない。

だがこれまでの出来事からだいぶ人間不信気味にはなっていた。大人の男3人にことごとくしてやられ、だが自分の環境がそこから逃げることを許さない。と言っても自業自得だが。

耐えるに耐え忍ぶという考えでやっていた私は、危険には近寄るまいという考えが身についていた。

困っていても自分で解決するのだと、助けを求めて応じてくれる輩なんぞどこにもいないんだと。

きっと女子高生も近いような存在なのだろうと。

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その子はレジに立っていた、自分より少し背が低いくらいなので女の子としては背が高い方なのかもしれない。

想像していたようなピアスじゃらじゃらもなければ、髪を奇抜な色にしているわけでもない普通の黒色。

ショートカットに笑顔の絶えない表情は、作り物の笑顔とかそういった考えを払拭し、更には自分の心の陰に光を差していた。

「お疲れ様です」

制服を着てレジに出るとそんな風に声をかけられた。それが普通のはずなのに私はひどくうろたえた覚えがある。

「あ、はい、お疲れ、さまです」

私のほうが大人のはずなのに、できた女子高生に先を先を行かれている。そんなやけに大人びている彼女に私は圧倒されていた。

「話は聞いてます、家風さんですよね、私は関口って言います、年下ですけど、わからないことがあったら何でも聞いてください、自分仕事だったら先輩なんで、すぐ助けますよ」

私の心から涙がこぼれた。こんな地獄にも救いはあったのだなと。

そして出会う前から疑ってかかっていた自分を恥じていた。考えをはっきりと改めた。

あいつらが例外なだけなのだと。

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関口さんはある意味では例外だった。

自分が困って助けを呼ぼうとする前に、彼女から声をかけてくれるのだ。

つまりレジや客だけではなく全体に目が届いていた。

わからないことを苦しみながら解決する、そんな地獄から解放してもらおうと、私は大学生ながら関口さんに頼った。

良く来る受付の処理の仕方、まだ任されていない仕事のやり方、とにかくこの間に全部聞いてしまって、もう二度とあのおっさんずを頼らなくていいようにしようと。

「なんか家風さんえらいやる気ありますね」

「いや、他の二人あんま教えてくれなくてさ、特に足立」

「ああ、あの人は、女の人にかっこいいしたいだけだと思うんで、女の子が一緒のときは違うらしいですよ」

関口さんは礼儀もあったが、割とづけづけ物を言う人だった。ただ、そこで間違えていないのがとても好感が持てていた。

そんな関口さんから聞いた話、そして『確かにありえそうだな』と私も思った。

「でも坂本さんの方は大丈夫だと思いますよ、まだ距離感があるのかもしれませんけど、時間が経つと案外助けてくれるようになると思うんで、まあ頑張ってください」

なんだか、ずぶ濡れの捨て猫を拾ってきたが警戒されているようなそんなイメージが浮かんだ。

実際は自分よりはるかにでかい大男なわけで、かわいさどころか威圧感さえ感じていたが。

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仕事について質問をし、客がいないときは色々会話もしていた。

『早く終わらねえかなあ、早く終わらねえかなあ』

そういったことを考えずにバイトが終わったのはおそらくこの時が初めてで、無性にうれしかったのを覚えている。

何故なら客に迷惑をかけずに終わった日でもあったから。

私は給料泥棒という言葉が大っ嫌いで、与えられた分の仕事だけでも完璧にこなすことを考えていた。

だから初日前日に下調べもしていたし、わからないことは前もって聞くようにもしていたが、おっさんずはそれを教えてくれないどころか逃げる奴もいる始末だった。

そんな私だからでこそ、客に迷惑をかけて終えるバイトの日が何よりも苦痛で仕方なかった。

おそらくおっさんずにかけられる心労よりそっちの方がしんどかったに違いないと。

だからでこそ関口さんは自分の中で神格化されていた。

ただここは地獄のような場所だ、なんで堕天してんだろうかとは思っていた。

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「関口さんは、なんでこの店のバイトやらされてるんです」

私は思い切って聞いてみた。ここは嫌われ者の流刑地のような店だ。

アル中(多分)に、さぼり魔に、おおよそつまはじきにされた者たちの魔窟にどうしてこんな天使がいるのだろうかと考えたがわからなかったのだ。

「……あんま言いふらさないでくださいよ、他の人が誰も入りたがらないからですね」

「なるほど」

頭を下げて頼みこむ店長に、しぶしぶ了承する関口さんの姿が頭に浮かんだ。

これ以上ないほど納得のいく回答だった。

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その日から私は関口さんが入る日を楽しみにするようになっていた、恋してる女の子みたいな考えだったのだろう。

シフトを見て、最悪でも坂本さんを、そして足立が出ないことを祈りながら確認するようになっていた。

実際のところ関口さんは多忙だったようで、ほかの店のシフトにも入ることがあった。

それでも心の支えに関口さんを置いていたのは間違いないだろう。

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